エミルカ



「怖いよぉ怖いよぉ」


彼はつねになにかに怯えていた。この前はペンが怖いと言った。その芯が自分をつき刺すのだとそう言って。その前は鏡が怖いと泣いていた。その欠片が自分を痛め付けるのだとそう言って。そして昨日は爪が怖いと叫んでいた。誰かを傷つけるだけのこんな爪、いらない、いらない、そう言って。ルカはその日に爪を全て剥いだ。後に残るのは指を真っ赤に染めた、痛々しい泣き顔だけだった。


「怖いよぉ、怖いよお」



そして今日も彼は泣いていた。



「怖いよぉ怖いよぉ」
「ルカ、どうしたの」
「怖いよぉ怖いよぉ」
「ルカ、落ち着いて」
「怖いよぉ怖いよぉ」
「ルカ、ルカ、」
「怖いよぉ怖いよぉ」



彼の瞳は僕を映しているにも関わらず怯え続けた。彼はずっと何かに怯えているのだ。ペンに、鏡に、爪に。それらは全て取り除いたはずなのに。彼を抱き締めると彼の身体が震えているのが分かった。彼の指は全て絆創膏で巻かれていて。彼は、尖ったものに怯えているのだ。



「ルカ、僕が君を守るから、もう痛いことなんて、何も無いから」
「怖いよお、怖いよぉ」
「ルカ、ルカ、僕が、僕がいるよ、いつだって、僕がいるから………」
「怖いよぉ、怖いよぉ」
「ルカ、ルカ、」




ルカの涙を唇で拭き取ると、何故かとても甘かった。



こわがり